大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和47年(刑わ)574号 判決 1975年3月04日

主文

1  被告人鈴木を懲役二年に、被告人古田、同長澤、同菅、同岡本、同岩井をいずれも懲役一年六月に、被告人佐倉、同米山をいずれも懲役一年二月に、各処する。

2  未決勾留日数中、被告人鈴木に対して二五〇日を、被告人長澤及び同米山に対して各一五〇日を、被告人古田及び同菅に対して各二〇〇日を、被告人岡本に対して一八〇日を、被告人岩井に対して二八〇日を、被告人佐倉に対して一二〇日を、それぞれその刑に算入する。

3  この裁判が確定した日から、被告人鈴木、同古田、同長澤、同菅、同岡本、同岩井に対しては各四年間、被告人佐倉、同米山に対しては各三年間、右各刑の執行を猶予する。

4  訴訟費用は別表のとおり被告人らの負担とする。

5  被告人長林、同仲田はいずれも無罪。

理由

(罪となるべき事実)

被告人鈴木、同佐倉、同米山、同古田、同長澤、同菅、同岡本、同岩井は、いずれも、政治団体革命的共産主義者同盟全国委員会(いわゆる革共同中核派)の主張及び行動に共鳴していたものであるところ、右中核派が、昭和四六年一一月一四日に東京都内渋谷地区においていわゆる沖縄返還協定の国会批准を実力で阻止すべく、同批准阻止、機動隊せん滅、全国総動員をスローガンとする東京(渋谷)大暴動斗争をくりひろげることを計画し、同年一〇月下旬ころから右斗争への参加を全国に呼びかけていたのに対し、右各被告人はそれぞれこれに呼応し、同年一一月一四日に渋谷地区を警備中の警察官及び同地区内の警察施設等に対し共同して害を加える目的を抱き、

一、被告人鈴木は、同日午後一時すぎころ、同都三鷹市下連雀三丁目四六番一号国電三鷹駅五番線ホーム上に多数の火炎びんを携行した村瀬正則及び藤田修二を含む十数名の労働者らを結集させ、もつて他人の身体、財産に対し共同して害を加える目的をもつて、兇器を準備して人を集合せしめ、

二、被告人佐倉は、同日午後二時半すぎころ、同都新宿区西新宿一丁目一番三号所在の国電新宿駅ホーム上において、前記斗争に参加すべく渋谷地区をめざして集合移動中であつた約一〇〇名の学生、労働者の集団をみかけるや、これに合流し、右集団とともに、無札で小田急電鉄株式会社小田急線新宿駅九番線ホームへ進み午後三時七分発経堂行き電車(六両編成)に乗車したが、同電車がほぼ定刻どおり発車してまもなく、右集団が前記の共同加害目的をもつて多数の火炎びん、鉄パイプを所持していることを認識したにもかかわらず、右集団から離脱することなく、午後三時一三分ころ、同都渋谷区代々木五丁目所在の同線代々木八幡駅で同電車から降りるまでの間、右集団とともに集合移動し、もつて他人の身体、財産に対し共同して害を加える目的をもつて兇器の準備あることを知つて集合し、

三、被告人米山は、同日午後三時三七分ころから四五分ころにかけて、同都目黒区大橋二丁目六番一七号の空地の草むらにガソリン入り一升びん二本が、右空地の北側、幅員約八メートルの通称淡島通りを隔てた同区駒場一丁目五番一二号の空地内のゴミ集積場に、ポリバケツに入れた火炎びん七本と鉄パイプ一本が、また、右五番一二号の空地の北側にある同番一四号深沢コーポ階段下付近に鉄パムプ六本が、前記共同加害目的のもとにそれぞれ兇器として隠匿準備されていることを知りながら、右共同加害目的を有する氏名不詳者数名とともに右大橋二丁目六番一七号の西方約五メートルの道路上に集合し、もつて、他人の身体、財産に対し共同して害を加える目的をもつて兇器の準備あることを知つて集合し、

四、被告人古田は中島政員ら数名の者とともに、同日午後七時ころ、同区東山三丁目一六番一四号佐藤荘一二号室及び同荘前の空地(同荘の入口から約二〇メートル北西の地点)に駐車中の小型乗用車(品川五五せ二五―七三)内において、多数の火炎びんを所持して集合し、もつて、他人の身体、財産に対し共同して害を加える目的をもつて兇器を準備して集合し、

五、被告人長澤、同菅、同岩井、同岡本の四名は、同日午後七時すぎころから七時一三分ころにかけて、同区東山三丁目一六番一四号桜庭源次郎方前路上から同丁目二二番七号東山コーポラス一階廊下内に至るまでの間、多数の火炎びんを所持して集合移動し、もつて、他人の身体、財産に対し共同して害を加える目的をもつて兇器を準備して集合し

たものである。

(証拠の標目)<略>

(弁護人及び被告人の主張に対する判断)<略>

(法令の適用)

被告人鈴木の判示所為は刑法二〇八条の二第二項に、被告人佐倉、同米山、同古田、同長澤、同菅、同岡本、同岩井の判示各所為は刑法二〇八条の二第一項、罰金等臨時措置法三条一項一号(ただし、刑法六条、一〇条により昭和四七年法律第六一号による改正前のもの)に、それぞれ該当するので、被告人鈴木以外の右各被告人に対しては、いずれも所定刑中懲役刑を選択し、その各所定刑期の範囲内で、被告人鈴木を懲役二年に、被告人古田、同長澤、同菅、同岡本、同岩井をいずれも懲役一年六月に、被告人佐倉、同米山をいずれも懲役一年二月に、各処し、刑法二一条により、未決勾留日数のうち、被告人鈴木に対して二五〇日を、被告人古田及び同菅に対して二〇〇日を、被告人長澤及び同米山に対して各一五〇日を、被告人岡本に対して一八〇日を、被告人岩井に対して二八〇日を、被告人佐倉に対して一二〇日を、それぞれその刑に算入し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判が確定した日から、被告人鈴木、同古田、同長澤、同菅、同岡本、同岩井に対しては各四年間、被告人佐倉、同米山に対しては各三年間、右各刑の執行を猶予し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文により、別表記載のとおり被告人らに負担させることとする。

(被告人長林、同仲田に対する無罪の理由)

一公訴事実の要旨

被告人長林、同仲田に対する各起訴状及び検察官が第四回公判において行なつた起訴状記載の公訴事実に対する釈明(なお検察官の冒頭陳述をも参酌する)によると、右被告人両名に対する各公訴事実の要旨は、「被告人長林、同仲田は、昭和四六年一一月一四日午前九時二〇分ころ、東京都文京区本郷五丁目六番一号長泉寺境内において、革命的共産主義者同盟全国委員会(通称革共同中核派)が計画中のいわゆる一一・一四渋谷大暴動に備えて同都渋谷地区を警備中の警察官及び同地区内の警察署、交番、警察輸送車に対し、共同して害を加える目的をもつて、多数の火炎びんを所持して集合し、もつて、他人の身体、財産に対し共同して害を加える目的をもつて兇器を準備して集合したものである。」というのである。

二当裁判所の判断

(一) 前掲証拠中、被告人鈴木に対する判示事実に関して挙示した各証拠を総合すると、右公訴事実の要旨に摘示した日時、場所において、被告人長林と同仲田の両名が会い、被告人長林が同所に用意していた火炎びん入りの包み数個のうちの風呂敷包み一個(火炎びん数本が入つているもの)を被告人仲田に手渡し、被告人仲田はこれを受け取るや、殆んど間をおくことなく、次の行き先として指示されていた国電三鷹駅に向けて一人で同所を離れた事実、右火炎びんの受渡しの際、被告人両名は右火炎びんが前記公訴事実の要旨中の警察官及び警察施設に対する加害のために用いられるべきものであることを認識、認容していた事実、被告人仲田は、当日の渋谷大暴動への参加を決意していた事実が一応認められるが、被告人長林が右受け渡しの後如何なる行動を取るか、とくに同被告人自身が渋谷地区に赴き、右の火炎びんを用いて、前記警察官及び警察施設に対する加害行為を自ら行なうか、又は、右加害行為を実行する集団の一員に参加する予定であつたかどうか等については証拠上必ずしも明らかでなく、まして、同被告人が被告人仲田とともに渋谷地区において右加害行為をする予定であつたかについてはこれを積極に認定するに足りる証拠はない。

もつとも、村瀬正則の検察官に対する昭和四六年一一月二七日付供述調書中には、被告人長林が同年一一月九日ころ沼津市内の添地公民館において、右村瀬ら一〇名位の者に対して前掲「前進」号外を読み聞かせるとともに、「僕も一一・一四斗争には参加する。そこでは沖繩のコザ事件のような暴動をおこすんだ」と述べた旨の記載が見られるけれども、右記載からは、同被告人が当時すでに何らかの役割を担つて渋谷大暴動斗争に参加する意図を有していたとまでは認め得ても、それ以上に、自ら渋谷地区に赴き、同所で実際火炎びんを用いる加害行為に関与することを決意していたとまでは認めることができず、いわんや右記載から直ちに、前記火炎びん受け渡しの後同被告人自身も渋谷地区に赴いたものと推認することはとうていできない。

(二)  そこで以上の認定にとどまる場合、なお右の火炎びんの受け渡し行為(もしくはそのための出会い)が、刑法二〇八条の二第一項の兇器準備集合罪に該当するといえるか、について検討するに、兇器準備集合罪が成立するためには、いわゆる構成要件的状況として、「二人以上ノ者他人ノ生命、身体又ハ財産ニ対シ共同シテ害ヲ加フル目的ヲ以テ集合シタル場合」が必要であるところ、右にいう「共同シテ害ヲ加フル目的」(以下、構成要件的状況としての共同加害目的、又はたんに共同加害目的という。)があると言えるためには、当該場所に集合した集団員のうち、少なくとも二人以上の者が、共同して加害行為を実行する目的を有することが、右集団員の大多数によつて了解されている場合であることを要すると解するのが相当である。

もつとも、右に言う加害行為の共同実行とは、右行為者が、厳密に共同正犯的な立場でこれを共同実行する場合に限らず、一部の者が加害現場において他の行為者の実行を支援、幇助するような形態でこれに参加する場合をも含むと解する余地はあるが、それにしても、右集団員のうち、たんに一名のみが犯行現場に赴くことを予定していて、加害行為の実行段階において、該集団員による共同実行ということが、全く考えられていないような場合には、構成要件的状況としての共同加害目的ありと言うことはできないのであつて、このことは、本罪がもともと、集団的暴力事犯を未然に防止するための処罰規定であることや、前記「共同シテ害ヲ加フル目的」という法文の字義等に徴して明らかなところと解せられる(東京高裁昭和三九年一月二七日判決、判例時報三七三号四七頁参照。なお、以上に関連して付言すれば、単に気勢をそえる目的でも共同加害目的を有するといいうる場合がある、との大阪高裁昭和四六年四月二六日判決、高刑集二四巻二号三二〇頁、あるいはみずから積極的に害を加える意図がなかつたとしても加害の目的があると認定することを妨げるものではない、との趣旨の東京高裁昭和四四年九月二九日判決、高刑集二二巻四号六七二頁等の判示は、いずれも構成要件的状況としての共同加害目的については前記の要件を優に充足する事案において、加害現場にいた個々の集合者の主観的要件としての共同加害目的に関してその限界を問題にしているのであつて、当裁判所の前記見解と矛盾するものではない)。

そこで右の見解に従つて本件をみれば、前認定のとおり、被告人長林は、本件集合地とされる長泉寺境内において、用意した火炎びん包み数個を被告人仲田を含めた数名の者に次次と手渡すべく、右の者らが来るのを待つていたことは明らかであるが、同被告人自身が渋谷地区に行つて警備中の警察官らに対する加害行為に前述の程度に関与する予定であつたとの点についてはこれを積極に認定すべき的確な証拠はなく、まして被告人仲田に右火炎びんを手渡す際、同被告人と前記のような意味において加害行為を共同実行する意思であつたとは、証拠上とうてい認め難いのであるから(なお、被告人仲田においても、同長林から火炎びを受け取る際、同被告人と加害行為を共同して実行する目的を有していたとは認め難い。)、被告人仲田、同長林の両名間に、構成要件的状況としての共同加害目的が存在していたと認めるのは困難である。

三結論

以上要するに、被告人長林、同仲田に対する本件各公訴事実中、構成要件的状況としての共同加害目的の点について、これを認めるに足りる証拠がなく、結局右各公訴事実は犯罪の証明がないことに帰するので、刑事訴訟法三三六条により、右被告人両名に対しては、無罪の言渡をすべきものである。

よつて主文のとおり判決する。

(永井登志彦 木谷明 雛形要松)

<(別表)訴訟費用負担一覧表省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例